7月号「家庭医療に産業医マインドを、産業保健に家庭医マインドを」

 

 産業医の立場では、メンタルヘルス・定期健康診断・長時間労働・労災や疾患による休職など労働者が通常と異なった状況にならない限り、残念ながら真の意味で労働者の状況を知る事はできない。そういう意味では、皮肉なことに仕事に穴をあける事もなく精神的にも肉体的にも元気で頑張り続けて働いている限り、職場では労働者の真の姿は見えにくいとも言える。

 翻って家庭医は「家族をまるごと診る」事が多いため、家族全員の状況を把握できるという特性を持っている。では「家庭医の視点」で労働者を見たらどうだろう?配偶者や子供達等の家族の身体的・精神的状況やそれぞれの気持ち・労働者の働き方の現状やそれによって労働者本人および家族にもたらす影響・介護や育児の問題・経済状況などについて多くの情報を得ているはずである。

 更にもし家庭医が「産業医マインド(産業医の視点)」を持っていたらどうだろう?例えば親や配偶者の介護など家族の状況が変化した場合を考えてみる。働く家族が現在の勤務を希望し続けるならば、その勤務を継続する中で無理することなく、どのくらいの時間を家庭の為に捻出できるのか?仕事内容・タイムスケジュールなど勤務形態の変更は可能なのか?肉体的・精神的疲労の蓄積はないのか?職場の人間関係はどうなのか?など労働者のおかれている様々な課題が自然に浮かび上がってくるはずである。

 今後の可能性としてこうした家庭医療と産業保健の融合が出来たらいいと思う。産業医を始めたばかりの医師からベテランの医師まで。また医師だけでなく保健師や看護師など多職種の専門職にもそのような機会は訪れるはずである。このワーキンググループでは、610日に初めての事例検討会を開催した。今後も様々なテーマで事例検討会や勉強会を開催する予定である。まだまだ試行錯誤の状態だが、「家庭医療に産業医マインドを。産業保健に家庭医マインドを」を目標に、そして更には産業医のいない中小企業の労働者の皆さんへの「家庭医ができるアプローチ」についても模索を続けていきたいと思う。

 人は、職場だけで生きているわけではない。社会人である前に、夫であり妻であり親であり子や孫であり、時には地域のボランティアの一員であるかもしれない。そして、それぞれの場所でそれぞれたくさんの役割を持っている。その一人の人間を様々な視点から診る事が出来る。それこそ家庭医療の醍醐味ではないかと思う。

 

                        2021年7月

                                                                       富田 さつき