5月号:「プライマリ・ケア医と産業保健」

 

日本プライマリ・ケア連合学会は、時代認識を基盤としながら、「人々が健康な生活を営むことができるように、地域住民とのつながりを大切にした、継続的で包括的な保健・医療・福祉の実践及び学術活動を行うこと」を目指し、日本社会の基盤インフラとしてのプライマリ・ケアの確立を中期的な目標としながら、プライマリ・ケア診療の普及と質向上支援、プライマリ・ケア領域の専門職の養成、等を柱として活動しています。地域で暮らす住民には、乳幼児から老年期世代まで、あらゆる年代が含まれます。プライマリ・ケアを担う医師は、こうした人々に対して、最も身近なかかりつけ医としての役割を担っています。

  

このような背景から、プライマリ・ケア医は労働者が健康問題に直面した際の最初の相談先となり得ます。その際、プライマリ・ケア医が労働者の労災・労働関連疾患のみならず、私病(労働者の持病など)の重症化を予防し、健康を維持・増進するといった産業医活動に寄与することは患者の治療と就労の両立支援にも繋がります。また、企業健診のフォローアップや二次予防、メンタルヘルスへの早期対応は、プライマリ・ケア医の主治医機能の一環ともいえます。

 

2014年の労働安全衛生法に基づく一般健康診断において、労働者における血圧や血中異常などの有所見率が53%に上るなど、疾病のリスクを抱える労働者は増加傾向です。さらに、同年の「がん患者の就労等に関する実態調査」では、80.5%の方が、治療を継続しながら就労を希望しています。一方、2012年の労働政策研究・研修機構による「職場におけるメンタルヘルス対策に関する調査」では、6割弱の事業所で、メンタルヘルスに問題を抱えている正社員がいるとしており、その数も増加傾向にあります。企業にとっても、メンタルヘルス問題を早期に発見し、問題が大きくなる前に対応することが求められています。このような社会的ニーズに対して、プライマリ・ケア医は、その得意とする他の専門科や専門職との連携、患者に必要な医療資源を適切に割り当てることで治療を円滑かつ効果的に進めること、患者やその家族との良好な関係性を構築することで、病歴やライフイベント、家族の事情など、患者の背景や文脈を深く知る能力をいかし、労働者本人、家族、企業の労務担当者・上司・同僚、産業保健スタッフ、主治医・医療スタッフ等と協力しながら、産業保健活動を実践していくことが求められます。

 

日本プライマリ・ケア連合学会における「産業保健に関するワーキンググループ」は、既存の産業保健に敬意を持って、それを尊重しながら、プライマリ・ケア医が得意とする能力を生かして、産業保健活動を実行するためのスキルアップや情報のアップデートを目的とした情報発信、生涯学習の場を提供していくべく、今後の活動を計画しています。

 

                       2021年5月

                       安藤 明美