10月号「健康診断の事後措置とは」

 

 多くの労働者が年に1回は受けないといけない健康診断。労働者にイキイキと働いてもらうためにも、会社の立場からはぜひ健診結果を有効活用していきたいところです。今回は健康診断の事後措置についてお話します。

 

 

 安全衛生法第66条に基づき、会社は、雇用する労働者に年1回、健康診断を受診させる義務があります。受診させたら終わりという訳ではなく、健康診断結果に基づき、「医師等からの意見聴取」、および必要に応じて「就業上の措置」を行う必要があります。これらは事後措置と呼ばれているもので、端的に言うと、健診結果を産業医等に見てもらい、普通に働かせてよいのか(通常勤務)、それとも就業にあたって何らかの配慮を要するのか(要就業制限)、はたまた仕事を休ませる必要があるのか(要休業)、「就業区分」を判断してもらうことになります。これは企業規模を問わず、従業員数50人未満の小規模企業であっても実施が求められます。

 

 

 そもそもなぜこのような対応が企業に求められるのでしょうか?企業には労働者の安全や健康に配慮して就労させなければならない「安全配慮義務」が課せられています。労働者が健康上のリスクを抱えながら、長時間残業などの過重な負荷の下で就労を続けてしまい、脳心疾患を発症するに至るいわゆる過労死を発生させてしまうと、企業としての法的責任(安全配慮義務違反)を問われることになってしまいます。このため、健康診断結果で健康上のリスクを把握、重大なリスクを抱える労働者に対して就業上の措置を行うことは、安全配慮義務を果たす上で極めて重要なこととなります。

 

 

 それでは、産業医の立場でどのように就業区分判定を行ったらよいのでしょうか?過労死の防止という観点からは、コントロール不良の糖尿病・高血圧、そして脳心疾患の既往歴は重視すべきポイントと思われます。それぞれの目安については、「産業医科大学. 医師のための就業判定支援NAVIhttp://ohtc.med.uoeh-u.ac.jp/syugyohantei/jiko.html)」に詳しく記載されておりますのでご参照ください。

 

 

 なお、就業区分の判定も単に健診結果に就業区分を記載すれば終わりという訳にはいきません。「要就業制限」と判定した場合、具体的にどのような配慮が必要か(例:残業は月〇時間まで)も企業側に意見として伝える必要があります。どのような配慮が必要かは、労働者の働き方(例:オフィス勤務者 vs. 夜勤中心のトラックドライバー)によっても判断が異なってきます。また、就業制限をかけることが目的ではなく、制限を必要としない状態にまで本人に改善してもらうことが真の目的になります。このためにも、まずは労働者本人と面談の機会を持ち、本人の働き方を知ること、および就業制限の意味や本人が取るべき行動について、きちんと説明をする必要があります。もし、本人に改善の意識があるようであれば、まずは判定保留としてその後の改善状況を踏まえて、2~3か月後に最終判定する方法もあるかもしれません。

 

 

また、企業側も事後措置に慣れていない可能性も高く、いきなり就業制限と言われても戸惑ってしまう懸念があります。このため、事後措置においては、企業側の理解を得ておく必要もでてきます。事前に企業側とも話し合いの場を持ち、事後措置の流れが確認できているとよいと思います(図参照)。

 

さて、6月号のコラムで紹介したケース(HbA1c:11.0%、深夜勤務、月100時間近い残業を繰り返している建設業の労働者)に対して、みなさまはどのような事後措置を行いますか?ぜひこのような労働者が過労死に至らないよう、プライマリ・ケア医や産業医の立場で健康障害の防止に携わって頂くことを願っております。 

 

 

                        2021年10月

                        今井 鉄平