11月号「コロナ禍の医療従事者のウェルビーイングを考える②」

 

 この産業保健ワーキンググループでは、定期的に事例検討会を開催しています。9月20日には、「病院産業保健 ~コロナ禍の医療従事者のウエルビーイングを考える~」と題して事例検討会を行いました。

 

 産業保健と言うと、まず工場の作業環境測定や会社のメンタルヘルスなどを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?病院や診療所の産業保健について、すぐに思い浮かぶ方は少ないと思います。しかしながら、私たちの働く職場である病院や診療所こそ、実は身近な産業保健の現場であるという事を私自身、今回の事例検討会で初めて気づきました。医療現場は患者さんを含め多くの人々がうごめく現場であり、患者さんとの関係に悩み、仕事に悩み、スタッフ間の人間関係に悩み、自身の健康問題やプライベートな悩みなども加わって離職に至る可能性が高い職場でもあります。

 

 今回の事例検討会では、ある病院の産業保健の取り組みを紹介すると共に、うつ病になった看護師の職場復帰の事例を発表していただきました。この病院の場合、産業医は、その病院に勤務する医師ではなく外部の医師です。2人体制で担当する保健師(病院ナース経験者)は病院内で産業保健業務のみを担当し、産業医と密に連携を取りながら、勤務スタッフの健診やメンタル相談などの業務を行っています。意外にもストレスチェックでメンタル相談を申し込む人は少なく、相談窓口や口コミで保健師に繋がることが多く、実績を積み重ねることで「何かあったら、保健師さんに相談しよう」という雰囲気がスタッフ間に広がってきていているそうで素晴らしいと思いました。

 

 コメンテーターである自治医科大学 健康センターの小川真規先生からは、病院にも一般企業と同様に産業保健を導入する必要があるのに現状ではできていない。その病院のチームの中では、なかなか本音を言えない反面、チーム外や院外の第三者には本音が言える。また医療者は病気になってはいけないという誤った認識がある。というお話がありました。医療現場にいる私としては、思い当たることばかりですが、やはりまだまだ病院産業保健は、一般企業のそれに比べて進んでいない現状があります。もちろん病院ばかりでなく診療所のような医療現場もスタッフ人数が少ないなりに病院とはまた違う課題も多くあり、それも含めて今後は、医療従事者のウエルビーイングについて考えていかないといけないと痛感しました。

 

 また産業保健師の田中先生から「困った人が、実は困っている人」なのだというご発言をいただき、こちらも目からうろこでした。私たちはついつい「困った人」に「困らされている人」を中心に物事を考えがちです。しかしながら「困った人」が実は、その人自身が「とっても困っている人」なのだと複眼的思考で考えてみると、違う世界が見えてくる気がします。私は、このワーキンググループのメンバーの中では、事例検討会を通じて参加者の皆様と共に産業保健を学ぶ立場であると思っており、こうして皆様と一緒に新しい事を学べる事に喜びを感じています。

 

 また参加者の皆様からのアンケートの中で「家庭医ならではの視点から家族の木やBPSの視点を合わせて日常診療への活用をしていく方法を検討会を通じて考えていました」というご意見をいただきました。実は今年の3月10日に開催された第5回事例検討会「中小企業におけるがん治療と仕事の両立の実際と課題」の中で私もBPSモデルを使って両立支援についてお話をさせていただきました。このように産業保健と家庭医療には共通する点も多く、親和性が強いと感じています。今回は、皆様のアンケートの中に家庭医という言葉がたくさんちりばめられていて「産業保健に家庭医マインドを。家庭医療に産業医マインドを」という私たちのコンセプトに少しずつ近づいているようで感動した事例検討会でした。今後も医療者のウエルビーイングの向上に向けて活動していく予定ですので、どうぞ今後にご期待ください。

 

                        2022年11月 

                        富田 さつき